こども音楽館

「こども」の本というには、あまりに大人なイラストが使われているCD付きの絵本シリーズである。既に絶版。実は子供の頃実家にはこれが全巻揃っていた。母曰く「どこに行っちゃったのかしら。素敵な挿絵ばかりだったのに。」その通りだ。捨てる筈はない。しかし、実家には1冊しか現存していないのである。「ないのよね、でも。」まあいい、というのはその挿絵のあまりのインパクトの強さに、今でも頭の中である程度再現が可能だからである。全12巻の内容は以下である。

  1. ピーターとおおかみ(絵:清水耕蔵)
  2. どうぶつのカーニバル(絵:柿本幸造)
  3. ふたりのぶとうかい(絵:いわさきちひろ)
  4. はくちょうのみずうみ(絵:初山滋)
  5. おにんぎょうコッペリア(絵:佐藤さとる)
  6. ヘンゼルとグレーテル(絵:伊坂芳太良)
  7. くるみわりにんぎょう(絵:掘文子)
  8. ペール・ギュントのぼうけん(絵:鈴木義治)
  9. ウィリアム・テル(絵:水沢)
  10. はげやまのよる(絵:センバ太郎)
  11. ピエロ(絵:渡辺三郎)
  12. まほうつかいのでし(絵:柳原良平)

なんといってもインパクトナンバーワンは伊坂芳太良のヘンゼルとグレーテルである。兎に角怖い。子供の絵本がこんなに怖くていいのかと思う怖さだった。出演者が全員邪悪である。(人間が全員邪悪と言い換えてもいい)子供の頃にこれを読んだ影響を大人になった今感じる。当時は伊坂芳太良が誰だか知っていたわけではないが。きっと私の心の深いところに住みついたのだと思う。

次に印象深かったのが鈴木義治のペールギュントの冒険。綺麗な色で書かれているのに、こちらの人間は皆、何か背負っているようである。面影が悲しそうだ。喋りそうもない人たちばかりである。子供の頃の私は、この人の絵とベン・シャーンの絵を混同していたと思う。のちに私はベンシャーンを好きになる。多分父親の本棚にあったのを見たのだ。

トリスのおじさんを描いた柳原良平のまほうつかいのでし。母と話しをした中では「あれもよく覚えているわ。」とのこと。この巻は、以前復刊コムを通じて一度復刊されたが、現在品切れで価格がすでに高騰。復刊が可能なら、1冊などとケチなことを言わず全巻まとめて復刊してもらえないものだろうか。

渡辺三郎のピエロも悲しそうな顔をしていた。手足がばらばらに、繋がっていないようなぎこちなさで描かれていて、思うようにいかない彼の心の内側のようであった。私の中にある「ピエロ=悲哀」の図式は、この絵本と当時に見た刑事ドラマの影響がある。その刑事ドラマは、ピエロの格好をした街頭のサンドイッチマンが殺されるという話で、ひどく悲しい筋書きだった。(という以上のことは覚えていない)

最近の絵本事情を殆ど知らないが、あの頃(1960年〜1970年代)の絵本の絵というのは、今より随分大人びていたような気がする。単なる可愛い絵ではなかったな。とベッドの上に転がした「伊坂芳太良の世界」という本を開いて思うのである。